People 3
尊敬し合える関係をつくるには
 まず自らが尊敬に値する
  存在であることを目指せ。
ITソリューション
T.Oda
ディテールを知らずに、
革新は成し得ない
多くのビジネスがITなしでは実現し得ない昨今、システム開発の重要性は日に日に増している。このような環境下において、効率的に開発を進め、高い品質を備えたシステムを作るためには、業務のアウトソーシング、オフショア開発、テストの自動化などの様々な技術、そして何より、開発プロジェクト全体を効率的に取りまとめるマネジメントが重要だ。私自身、プロジェクトマネジメントの比重が年々増え、ディテールにまで細かく関わる機会は減りつつある。しかし、大切なことはディテールの中にあるのだ。思えば、国際システムに関わり始めたのは20年前。私は三井住友銀行のアジアやアメリカの拠点に勘定系システムを導入するプロジェクトに従事していた。まだ若かったため、システムの一担当者として、プログラムを一つひとつ書き、何度も何度もテストを重ねるような地道な作業に没頭していた。その後も数多くの開発を経験してきたが、20年経った今でも、言語やツール・開発手法など進化してはいるものの、どんなにITが進化してもベースの部分は変わらない。一行一行、プログラム言語を記載していく。それはまるで機織り機で布を織るような地道な作業だ。しかし、時として「間違い」が織り込まれることもある。後になってその「間違い」に気付く。前の工程に遡って修正し、発生原因と再発防止策を考える。こうした経験が自分の中で血となり肉となる。そうすることで、仮に不具合が発生したとしても即時に判断し、どこで何が起きているか、どう対応したらよいかという、ある種の「勘」も働くようになるのだと思う。我々が取り組む日本の金融システムは、世界有数のクオリティ、スピード、セキュリティレベルを誇っており、まさに匠の技術によって支えられている。プロジェクトマネジメントが重要かつ責任の大きな仕事であることは間違いない。しかし、細部に神は宿る。ディテールを疎かにすると、システムの本質を見抜く目は濁り、その先の革新はなし得ない。プロジェクトマネジメントの重責を担いつつも、細部を知り尽くしたプロとして、全体をコーディネートしていけるようにならなくてはいけない。
立ちはだかった
風土・文化・価値観の『壁』
これまでに関わったプロジェクトの中で、特に記憶に残るのは、海外の銀行勘定系システムを刷新した経験だ。この案件で我々は初めて海外のベンダーが作るパッケージの導入に踏み切った。パッケージとは、いわば「既製服」。いつも我々が作る完全オーダーメイドとは異なり、全体的なシステムのあらかたはでき上がっている。それを我々の使用目的に合わせ、カスタマイズするのだ。
「万に一つの『想定外』も、決してあってはならない」。それが我々のシステム開発のポリシーだ。地震などの天災を含め、起こり得るあらゆるリスクを想定し、それに対応した機能を備えておく必要がある。それが完璧に実現できてこそ、堅牢な金融システムの信頼は保たれるのだ。しかし、今回協業したアメリカのパッケージベンダーのエンジニアには、そんな我々の思いがなかなか伝わらない。TV会議に姿を現す彼らは、「信じられない」というジェスチャーとともにこう言うのが常だった。「万が一のリスクを想定した場合の機能だろ?それっていつ動くんだ?なぜそこまで一生懸命に作る必要がある?」「信じられないのはこっちのほうだ」。私は喉まで出かかった心の叫びをぐっとこらえながら、彼らと向き合った。金融機関として致命的な、信頼を低下させるようなミスは絶対に許されない。これを自分の中の揺るがぬ基準として、様々な修正のオーダーを迫った。
殻をこじ開け、
相手を本気にさせるために
ところが修正を依頼しても、こちらの要望するスケジュールではなかなか進まない。しかも、修正したはずにもかかわらず、同じ不具合が残っている。「一体、どんな対応をしたんだよ」。当社メンバーの一人が吐き捨てるように言う。そんなことが次の日も、また次の日も起こった。もどかしい。次第に、食事をしても味がしない日が続くようになった。ある日、ベンダーのエンジニアが来日し、日本総研本社にやってきた。こちらからつたない英語で詰め寄る。「何度言っても改修が進まない。どういうことだ」。彼らはあきれた口調でこう返してきた。「だから、なぜそこまでやる必要が?理解できない」。彼らの言葉を聞き、私は机の下で握り拳を震わせた。日本人同士でやる場合とはまったく異なり、海外のベンダーにあうんの呼吸は通じない。必要最低限のこと以外はやる必要はないという考え方だ。だから、彼らを「その気にさせる」、「奮い立たせる」ことが必要だった。そのためには、まず彼らに信頼してもらうことが必要だ。その仕事の意図するところや背景を丁寧に粘り強く説明し、ホワイトボードも使いながら彼らとの真摯な対話を繰り返した。徐々に徐々に彼らとの間の溝が埋まっていき、我々の仕事に対する想いが伝わり始めた。すると、今まで以上に真剣に話を聞いてくれるようになった。こうした積み重ねによって、そのうち私のことを信頼してくれるようになる。文化、言葉、価値観のすべてが違っても信頼し合い、尊敬し合うことができれば、プロフェッショナルとしてお互い本気になることができるのだ。
目指すのは相互が尊敬し合い、
感動し合える組織
100名を超える組織を統率する立場となった今、この部隊が常に活性化し、高いパフォーマンスを生み出す組織であり続けるために必要なものは何かを問い続けている。部下にいつも伝えているのは、一緒にシステムを作り上げるステークホルダーが常に尊敬し合える、信頼し合える、思いやりを持ち合える関係性を築いてほしいということ。組織のデザインを自分が描いてメンバーに要望しても、相手とこうした関係性が生まれていなければ画に描いた餅に終わってしまう。こちらが熱意を持てば、相手も実際に「ここまでやってくれたのか」という期待以上のことを成し遂げてくれる。信頼関係を作りさえすれば、どんな困難でも克服していけるという気持ちになる。では、信頼し合える組織風土はどうすれば生まれるのか?単にメンバーにスキル、知識、ノウハウを与えてもそうした関係は生まれない。むしろ仕事に対する向き合い方を教えることが重要だと思う。例えば、尊敬される立場になれといっても、経験の浅い若いメンバーでは難しいこともあるだろう。しかし、まずは自分が相手に感動を与えるために何ができるだろうと考えることがその第一歩になるはずだ。とはいえ、これは解のない世界だ。100の状況があれば100の解がある。だから部下に伝えるべきは、私自身の仕事との向き合い方であり、価値観だと思う。
人はなぜ働くのだろうか?そんな大きな問いにぶつかる時が私にはある。思えば人生のかなり長い時間を、仕事に費やしてきた。私自身、『仕事は仕事』という割り切った考えはできない。ディテールにこだわり、与えられた条件下で最高の品質を目指すということが、生きる上での私のプライドになっている。若い人にはシステムの上っ面だけを見て仕事をしてほしくないし、決して妥協をしてほしくない。尊敬に値する人間になるために、いかに自分を磨き上げられるか。めぐり合った環境の中できれいな花を咲かせるために、常に自助努力を重ねてほしい。もちろん、私自身もそうあり続けたい。
Profile
入社
1989年
専攻
理工学部
趣味
海や山での魚釣り
日本総研でのキャリア
長年にわたり国際システムに携わる。国際系システムの開発グループ長、アジア勘定系システム更改プロジェクトの担当部長を経て、三井住友銀行の海外拠点で利用する基幹システムを所管する部署を統括する。